レポートを書くためのコツ 入門編(1)
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はじめに
ここでいうレポートとは、大学や学校で課題として与えられたテーマについて、学生が作成する文章のことです。実験や社会調査を行うレポートについては「IMRAD」で検索して他のウェブを参照してください。
非常勤講師をしていると大量のレポートを添削することになります。添削したレポートのなかには、内容がエッセーのようなものや、根拠のない持論を展開するだけのものが散見されます。それでは大学で課題として与えられたレポートとして提出することができるレベルとは言えません。レポートの書き方の本は世間にたくさんありますが*1、本を読まずにネットで済ませたいという人のために、教員の立場からこうしたほうがいいよ、という記事を書きたいと思います。
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レポートは、なぜ課されるか。
大学や学校で課されるレポートは、学生が理解したことを教員が確認するためのものです。学生が授業で得た知識を確認するだけであれば一問一答の試験でよく、教科書の内容からの出題で充分といえます。しかし、レポート(もしくは論述式の試験)は、学生が理解したこと、つまり授業で得た知識に基づいて論じることができるかどうかを確認するために課されます。したがって、レポートでは、出題されてから提出するまでの期間を使用して、教科書に加えて文献を参照し自分の理解したことを記述する必要があります。
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レポートはどのように書けばよいのか。
レポートの内容として、ただ知っていることを羅列しただけでは、一問一答の試験の回答と同じです。また、エッセーのように徒然なるままに書いただけでは知識を体系だって理解しているかどうかの判断ができません。
レポートでは、論旨に一貫性があり、主旨が明瞭な文章で、文献の引用を適切に行っていることが求められます。
論旨に一貫性があり、主旨が明瞭な文章とは、論理が通っている文章のことです。ここでは、いわゆる三段論法に代表されるような論理的思考*2にはふれず、レポートの形式について以下のように解説したいと思います。
レポートの形式としては、
(1)序論で自分の意見の主張を行い、
(2)本論で文献を引用しながら自分の意見の裏付けをし、
(3)結論でまとめます。
だいたいこの形式をとっていればレポートとしてはぎりぎり及第点です。文献の引用については後述します。レポートの書き方はさまざまありますが、ここではこの形式に従って解説していきます*3。いきなり序論本論結論と言われてもイメージができない、という方はこの記事が「はじめに=序論」「序論本論結論に何を書けばよいのか。/文献の引用を適切にする。=本論」「おわりに=結論」のようになっていることをさらっと確認してみてください。
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序論、本論、結論に何を書けばよいのか。
もちろん、序論、本論、結論の形式でないレポートの書き方もありますが、ここでは理解しやすいために取り上げています。また、これまでの国語教育などで起承転結といった文章の形式をならったことのある方もいらっしゃるかと思います。それはここでは一度忘れて、とりあえず序論、本論、結論の三部構成にするんだな、ということだけ頭に置いておいてください。
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序論
自分の意見の主張というのは、一見わかりにくいかもしれませんが、課題として与えられたテーマについて自分なりに考えたことを書きます。たとえば、「図書館の役割とは何か」というテーマを与えられたら、自分の意見として「図書館の役割とは、資料の収集、整理、保存、提供を通じて市民の知る権利を保障することである。」と序論に書きます。ここでお分かりいただけると思いますが、自分なりに考えるためには、テーマについてある程度知っている必要があります*4。上記の例では、図書館法に書かれた図書館が「収集、整理、保存、提供」をする施設であると定められていることを知っており、また図書館が教育基本法で定められている学問の自由と、民主主義社会の基盤である知る権利を支えている歴史を踏まえています*5。テーマについて何も知らない場合には自分なりに考えることができないため、いくつかの文献を参照する必要があります。場合によっては、レポートの内容をかんたんにまとめて序論で「~について考察したい。」のように記述することを求めることもあります。
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本論
文献を引用しながら自分の意見の裏付けをする、というのは前段落でテーマについて考える際に参照した文献を使います。全てを使う必要はありません。また、自分の意見を裏付けるために新しく文献を探して参照し、引用してもかまいません。参照した文献を使って引用しながら、自分の意見は、他の文献でも言われていることであり、根拠のない言説でないことを証明します。根拠のない言説はただの公衆トイレの落書き以下ですので、根拠を示す必要があります。例文の本論は「図書館法では、図書館について資料の収集、整理、保存が規定されている。また、図書館法の上位法である教育基本法には、学問の自由の尊重が定められている。山田(1)によればこの学問の自由は~~と指摘されており、図書館の役割の一つということができる。また、田中(2)によれば、市民の知る権利の保障は~~と言及されている。したがって、市民の知る権利は、民主主義社会の根幹をなす学問の自由によって支えられており~~といえる。」のように書きます。こうした記述の積み重ねを、課題として与えられたテーマによって量を増やすか減らすか判断し、自分の意見で裏付ける必要のある部分を補ったり、自分の意見に対する批判的な文献を引用して、考察を深めたりします。
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結論
まとめ、というのは序論で行った自分の意見の主張と本論の意見の裏付けを簡潔にまとめて、さらに必要であれば将来の展望や、本論で言及できなかったことなどを書きます。読み手にわかるように、自分で記述したことの要点はどこで、なにを主張したかったのか、序論と本論は一致しているのか、序論で言いたかったことを論証できたかどうかを自分で評価して記述します。本論で書いたことの繰り返しのように感じるかもしれませんが、簡潔にまとめることができるというのは、記述したことについて理解していないとできません。例文の結論は「図書館の役割は、図書館法で定められており、知る権利の保障の一端を担う施設であるといえる。なぜならば、図書館は教育基本法で定められた学問の自由を保障する施設であり、学問の自由は、民主主義社会の根幹をなす市民の知る権利の自由によって支えられているためである。」のように書きます。これはあくまで例なので、必ずこのような文章をかかなければならない、というわけではありません。
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文献の引用を適切にする。
前提として、引用した文献は全て引用文献として列挙します。また、引用した文と自分の文章は明確に区分できるよう記述します。引用する文献は必ず自分の意見を裏付ける、もしくは補ったり批判したりするものを用い、論旨と関係のない文献は引用してはいけません。
具体的には、引用文献の一覧は、引用した順に並べて番号をふり、本文中では引用文献の番号は引用した文の文末や著者名のあとに付します。文章を要約して引用するのか、文章をそのまま引用するのかで記述方法が変わります。
文章を要約して引用する場合には、要約した文の文末に引用文献の番号を付します。この記事の文章の文末にも、いくつか数字が付されている文章があると思います。いくつかコメントを書くために使用していますが、番号2と3は要約して引用した場合の引用で、ウェブページと電子書籍なのでページ数は記載していません。また、例文の本論では、名前のあとにかっこ付けで数字をふっています。
文章をそのまま文献から引用する場合には、引用した文を「””(ダブルコーテーション)」などで囲み、引用文献の番号を後の「”」のうしろにつけて、自分の文章とは区別します。引用文献の一覧には、引用した文が書かれているページを必ず書きます。また、文献から引用する量が2行以上になる場合には、引用した文の前後に一行ずつ空行を挿入し、引用した文はインデントを一つ下げて本文中に挿入します。
おおむねこのように引用すれば適切に引用できているといえます。ただし、大学や教員によって、細かく引用の記述方法が指定されている場合もありますので、その場合には指定に従う必要があります。
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おわりに
この記事では、レポートの書き方の方法の一つを解説しました。序論本論結論の形式で、上記にしたがって書けば、論旨に一貫性があり、主旨が明瞭な文章で書くことができるはずです。また、文献の引用は方法について詳しく書きました。しかし、そもそも本論で文献をどう引用するかが重要です。その部分については論理的思考、ロジカルシンキングについて書かれた他のウェブや文献を参照してください。
また、繰り返しになりますが、実験や調査をしている場合にはIMRADを参照してください。また、レポートの書き方としては他の方法もあります。合わない場合には他のウェブや参考文献などを参照してください。より詳しく知りたい場合には以下の参考文献を参照してください。
参考文献としては、
木下是雄「レポートの組み立て方」筑摩書房
があります。
以上、レポートについての書き方について少しでも悩める学生の役に立ちたいと思い記事を書きました。
※引用について記事を書きました。