レポートを書くためのコツ 入門編(2)

はじめに

 このブログのおよそ半数のアクセス数を占めるのが、レポートを書くためのコツ 入門編(1)です。多いときにはのべ1日100以上のアクセス数が1週間~2週間ほど続く時があり、ああ大学生がレポート提出の時期なんだなというのを感じます。

 さて、当該の記事は書いて5年ほど経過しているのに未だ読まれており大変ありがたいのですが、”入門編”と書いたからには次の段階を書こうと思います*1

 

入門編(1)で書いたこと

 まずは、レポートとはなんぞやということ、次にざっくり序論本論結論で書きましょうということ、そして引用をしましょうということを書きました。序論本論結論で書いていて、文献がきちんと引用できていれば及第点をもらえますよ、ということも書きました。大学のレポートは授業のために書くものですので、及第点がとれればいいという方は上記の入門編(1)をご覧下さい。入門編(1)がみなさまのお役に立ったこと/お役に立つことを願うばかりですが、及第点ではなくもっと良い点をもらいたい!という方向けに入門編(2)を書きたいと思います。

 

入門編(2)について

 レポートで及第点以上の良い点をもらうには、引用が重要です。自分の意見が問われているレポートでは、自分の意見だけを書けばいいと考えるかもしれませんが、なぜそう考えたのか、ということを書く必要があります。なぜならば、大学の授業で求められているレポートは、報告書ではなく授業の内容をきちんと理解できているかを学生が教員に示すものだからです*2。入門編(1)からの繰り返しになりますが、ただ自分の意見だけを書いたものは感想文やエッセーや日記、あるいは便所の落書きと同じです。大学のレポートとみとめられるためには、文献の引用によって自分の意見の裏付けをして根拠を示しながら考察しなければなりません。しかし、文献の引用ができていたとしても、自分の意見を裏付けるために、都合の良い文献だけを引用するのも程度が低いレポートとなります*3
 そこで、入門編(2)では引用の方法と引用すべき文献の探し方について扱います。

 

引用とは

 引用引用とはよく聞くけれど、転載とどうちがうのかよくわからないという人もいるのではと思います。引用については、著作権法第三十二条で定められています。レポートは大学と教員しか読まないし、著作権法は関係ないのでは?と思われるかもしれませんが、誰かがが書いたものすべてに著作権法は適用され、いかなる場合においても保護されています*4。ただし、誰かが書いたもの*5が自由に使える場合について定められており、それの一つが引用です。

著作権法

(引用)

第三十二条 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。

2 国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が一般に周知させることを目的として作成し、その著作の名義の下に公表する広報資料、調査統計資料、報告書その他これらに類する著作物は、説明の材料として新聞紙、雑誌その他の刊行物に転載することができる。ただし、これを禁止する旨の表示がある場合は、この限りでない。

 著作権法第三十二条にかかれている通り、引用には”公正な慣行に合致するもの”であり、”報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるもの” という2つの要件を満たす必要があります。”公正な慣行”や”正当な範囲内”といわれてもよくわからないと思います*6文化庁では以下の通り示しています。

「引用」とは、例えば自説を補強するために自分の論文の中に他人の文章を掲載しそれを解説する場合のことをいいますが、法律に定められた要件を満たしていれば著作権者の了解なしに利用することができます(第32条)。
 この法律の要件の中に、「公正な慣行に合致」や「引用の目的上正当な範囲内」のような要件があるのですが、最高裁判決(写真パロディ事件第1次上告審 昭和55.3.28)を含む多数の判例によって、広く受け入れられている実務的な判断基準が示されています。例えば、[1]主従関係:引用する側とされる側の双方は、質的量的に主従の関係であること [2]明瞭区分性:両者が明確に区分されていること [3]必然性:なぜ、それを引用しなければならないのかの必然性が該当します。

著作権なるほど質問箱

 上記で示されているのは3つのポイントです。1)主従関係、2)明瞭区分性、3)必然性です。すなわち、1)は引用する文章よりも自分のオリジナルな文章が質と量ともに多いこと、2)は引用する文章と自分のオリジナルな文章が明確に区別できるよう記述されていること、3)引用する必要があることを示しています。

 自分のオリジナルな文章が引用した文章よりも短い場合、引用の要件を満たしていません。また、どこまでが引用する文章で、どこからが自分のオリジナルな文章なのか、が明確でない文章は引用の要件を満たしていません。さらに、なぜ引用したのかが文章中で示されていない場合には、引用の要件を満たしていません。引用するには、いずれかの要件を満たせばよいのではなく、すべての要件を満たす必要があります。すべての要件を満たしてはじめて引用ができるということになります。

また、他の著作権団体では以下のように示されています。

Q. 他人の著作物を引用するときの注意点を教えてください。
A.
「引用」とは、例えば論文執筆の際、自説を補強するため、他人の論文の一部分をひいてきたりするなどして、自分の著作物の中に他人の著作物を利用することをいいます。この場合、著作権者の許諾なしにその著作物を利用することができますが、「引用」といえるためには、「引用の目的上正当な範囲内」で行われるものであり、以下の条件を満たしていなければなりません。
・すでに公表されている著作物であること
・「公正な慣行」に合致すること
・報道、批評、研究などのための「正当な範囲内」であること
・引用部分とそれ以外の部分の「主従関係」が明確であること
・カギ括弧などにより「引用部分」が明確になっていること
・引用を行う「必然性」があること
・ 「出所の明示」が必要(コピー以外はその慣行があるとき)

著作物が自由に使える場合は? | 著作権って何? | 著作権Q&A | 公益社団法人著作権情報センター CRIC

  ほぼ同じことが書かれていますが、異なる部分としては3点あり”すでに公表されている著作物であること”、”カギ括弧などにより「引用部分」が明確であること”、”「出典の明示」が必要(コピー以外はその慣行があるとき)”が示されています。文化庁判例よりも、具体的にかかれていることがわかります。なお、出典の明示は著作権法第四十八条に定められており、文化庁のウェブサイトでは以下のように示されています。

「引用」とは、例えば自説を補強するために自分の論文の中に他人の文章を掲載しそれを解説する場合のことをいいますが、著作権法に定められた要件を満たしていれば著作権者の了解なしに著作物を利用することができます(第32条)。この法律の要件の1つに、引用される著作物の出所の明示(出典を明記すること なおコピー以外の方法(例 講演の際に他人の文章を引用し口述)により引用する場合はその慣行があるとき)を義務付けています(第48条)。その方法は、それぞれのケースに応じて合理的と認められる方法・程度によって行われなければいけないとされていますが、引用部分を明確化するとともに、引用した著作物の題名、著作者名などが読者・視聴者等が容易に分かるようにする必要があると思われます。

著作権なるほど質問箱

 これら2つの団体が示している要点を整理すると、

1.引用する文章よりも自分のオリジナルな文章が質と量ともに多い

2.引用する必要がある

3.すでに公表されている著作物であること

4.カギ括弧などにより「引用部分」が明確であること

5.「出典の明示」が必要(コピー以外はその慣行があるとき)

 上記の5点になります。この5点を本稿では、引用のポイント5点とし、1について言及する場合には、引用のポイント1は~、のように記述します。

 著作権法で定められているのは”公正な慣行に合致”、”正当な範囲内”、”出典の明示”ですので、文化庁や上記のような著作権団体が示しているガイドラインがポイントになります。すなわち、慣行というのはこれまで行われてきたこと*7という意味ですので、誰か一人で決めるものではなく、たくさんの人や団体で決まっていくものであり、変化していくものです。そのため文化庁が示している最高裁判例や、著作権団体が示しているガイドラインが広く周知されているものと解することができます。

 ちなみに引用のポイント1の具体的な文章量としては、自分のオリジナルな文章が、引用した文章よりも全体の半分以上となるのが望ましいといえます。半分未満が自分の文章では、質と量ともに多いとは言えないからです。自分のオリジナルな文章よりも引用した文章が全体で多い場合には、主従関係が逆転してしまい、引用が主となってしまうため引用の範囲を超えるため、みとめられないということです。

 上記の要件を満たすことで、著作権法上みとめられている引用を行えます。他方、できていない場合には引用の要件を満たしていないことになり、引用として成立していない、すなわち著作権法違反になります。

 

引用とはみとめられない場合

 レポートでもっともよく見かけるのは、引用のポイント1と4ならびに5ができていないものです。具体的には、どこかからもってきた文章を切り貼りしただけ、教科書の丸写しあるいは語尾を少し変えただけ、与えられた課題中にある単語の説明を辞書から切り貼りしただけ等で、自分のオリジナルな文章がほぼなく、引用元も示されていないレポートです*8。これは他人が書いた文章を自分が書いたようにみせかけていますので、明らかな著作権法違反であり剽窃にあたります。また、引用元は示せているもののどこからどこまでが引用で、どこからどこまでが自分のオリジナルな文章なのかを示していないレポートがあります。これも同様に剽窃にあたりますが、引用元を示しており、引用元を確認できるので、教員によってはカギ括弧などによる修正を指導しない場合があります。しかし、小学校3年生~4年生は平成29年学習指導要領によって引用の仕方を身につけるよう定められていますので、大学生ができないというのはあってはならないことといえます。

 たびたび話題になる”無断引用”ですが、引用というのは著者に断りなく行うことができるものと著作権法で定められていますので、無断で行われるのは転載ということになるかと思われます。転載は法律に定義されていませんが、Googleで検索すると複数の記事が出てきますのでぜひそちらをご覧下さい*9

 

おわりに

今回の記事では、入門編(2)として引用のポイントについて書きました。次回は引用すべき文献の探し方について書きます。長くなったので一旦ここで終わります。

 

*1:本当は入門編とだけ書いてあったのに初級と書き足しました。続きものであることがわかるように入門編(1)としました。

*2:文章をまとめるだけのレポートもありますが、それについてはここでは対象としません

*3:また極稀にレポート中の文章に下線や強調しているものを散見しますが、課題として設定されている場合を除きレポートでは加点されずむしろ減点対象になりますのでご注意ください

*4:引用以外について詳しくは文化庁のウェブサイトへ著作物が自由に使える場合 | 文化庁

*5:著作物といいます

*6:ちなみに法律には著作権法で保護されていません

*7:古くからの習わしとして行われていること。慣行(かんこう)の意味 - goo国語辞書

*8:ネットを検索すればすぐ出てくる文章はだいたい教員もチェック済みですし、レポートに関連した文献もチェック済みです。

*9:転載とは - Google 検索